「未明(みみょう)」2017/2.20~4.06制作過程
274.5cm×350cm パネル/テンペラ、油彩
2月20日 シナベニヤ6枚組パネル+天竺木綿+μグラウンド下地 木炭による自由なドローイングによる全体の構想がほぼ固まり制作が始まる。
木炭ドローイング細部。
2月22日 馬上の人の顔を改作
同日 罫書き線を入れた後、防塵マスク等完全防備の上、
#240紙やすり+テレピンで表面を平滑にする。
2月28日 油彩の黄土色、藍色の上にテンペラ焼シエナ土による下地、最後まで白く残す部分は下地を作らない。
3月2日 アトリエの情景
3月3日 とりあえず高所の樹木から描き出してみる。
3月6日 未明の情景と定め小豆色のマルーンによる空を実現してみる。
3月15日 遠景より手前に徐々に描き進める、緑土、ナポリ黄。
3月27日 景色が固まり絵面が現れ人物を描き始めた。
4月2日 小豆色のマルーンや朱、カーマインと瑠璃色(ラピスラズリ=ウルトラマリン)を対比させながら制作を続けることになってきた、遠くから近くへ、近くから遠くへと画面の中を行き来しながら描き進める。
4月5日 地面の色、間近の杉の樹木群、塔、雲を持つ男等あえて最後まで詰めを行わなかったものたちを一挙に描ききる。
4月6日 画面の外手前にあるものも画面に押し込めるようにして春陽展の搬入日を迎えた。
柔らかな星のない夜の未明、下手に佇んでいる雲を持つ男の見守る中、近く、遠く、高く低く、様々な物語が繰り広げられます、彼らは静かに、あるいは激しく、一見無関係に反時計周りの円環あるいは螺旋の中、今という時を送っているのです。
舘 寿弥氏 第94回春陽展中川一政賞 推薦理由
第94回春陽展中川一政賞は展賞推薦委員会が4月18日全作品展示後、新美術館内の会議室で開かれ審議の結果舘 寿弥氏に決まりました。
舘寿弥氏は長い春陽会人のキャリアの中で一貫して絵画素材のありように深く惹かれ試行錯誤と実験を積み重ねてきました。そのモノクロームの画面は独自の空間認識に基づく多様なテクスチュアに支えられた蠱惑的な世界で、観る者を思わず画面の前に佇みたくさせる絵画世界を生み出してきました。
その思弁的な抽象世界はやや晦渋とも思えるとともに、手練れの冴え冴えとした手業がやや先行しているかのようにも思えました。
しかし氏は近年長く培ってきた方法をいったん零に戻すかのようなイノセントでファンダメンタルな方法を取り始めました。紙とインクによる微小なパターンの繰り返しという単純で一種作業的な方法です、これは画面に時間を埋め込むという風通しの良い方法ともいえます、果たしてこれで絵画が成立するのかとも思える方法ですが舘氏は長大な時間をかけ画面と向き合ったのです。始まりが有り終結しえない世界こそ作者の意図するところでしょう。
今回の出品作「領域」M100は作者のこうした意図を極限まで押し広げたかと思わせます。我々にとって無限とも思える時間の連鎖、その一部を見事な密度感を持って可視化し得た作品が中川一政賞となりました。
第94回春陽展中川一政賞は展賞推薦委員会
文責 小林裕児
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