2026第103回 春陽展 小林裕児作品 「スーパームーン」制作過程
その日、大きな満月=スーパームーンを東の空に見た、暫くぼんやり眺めていた、古来わが国では月は様々に愛され、満ち欠けに様々な思いを込めて名前を付け愛でてきた、しかしスーパームーンはまた格別、大きな月の表面のウサギ?柄まで肉眼で確認でき、われらの世界を月明りで照らし出す。

2026/01/14
○全体のイメージをほぼ固め終わり制作を開始する。2025年制作のドローイング「スーパームーン」を起点として大作に展開する。
パネル/農業用不織布+水希釈1:3μグラウンドを直交10回塗り→上図、木炭によるざっくりとしたドローイング。
たそがれどきか、急な下り坂の底辺に交差点、赤信号、下り坂を降りる自転車たち、何本かの紅葉したメタセコイヤ、上手のトックリヤシ並木、景色の奥、海の水平線が見渡せる。実景からイメージ世界へとメタセコイヤの紅葉の朱が誘う。
様々なモチーフが点景に描かれる、中心に青い卵を追う女性。頭上にバイオリンを持った小さな男、即興演奏前の空白時間の中にいる。中心に様々な鳥たちとともに描かれる花手水を持つ少女、すぐ上に青い卵を追う横向きの女性、上手から下手へ画面を横切る8羽の飛翔するカケスたち。
季節をまたいで描かれるどこにでもあり、どこでもない景色。
ドローイングの過程でサイズ変更、上手が窮屈と感じ幅60㎝のパネルを発注追加し200×302.4㎝に変更した。
2025年制作参考作品
1 「スーパームーン」F15 53×65㎝ 53×65.5㎝ 古い藍布/アルキド絵具
2 「薫風空舟」143×145㎝ 柿渋古紙/アルキド絵具
3 「ミモザ舟幻視」45.2×33.2㎝ タイシルクオールド/アルキド絵具
○2025年制作の古紙、古布ドローイング作品連作の中で膨らんだイメージをもとに上述のとおり自由に木炭でドローイング、罫書線をダイヤモンドニードルで刻んだのち♯250の紙やすりで木炭を削り落とすとともに、平滑な表面を造り出し制作を開始。

2026/01/23 2026/01/28 2026/01/28 部分
○プルシアンブルー+イエローオーカー+バーントシェンナで地透装開始(リクインファインディテール:アルキド油彩 以後(LFO)と表示)、植物相はバーントシェンナ+アキーラグロスメディウム(以後AG)大きな月と馬は意図的に下地を残す。
・空にあたる部分と中央に出現した海はステッドラー8B鉛筆によるダブルクロスハッチングで埋めてゆく(2026/01/28 部分参照)。なぜか何もない空に黄昏時間に密度を求めた(1/23⇒1/29)。
・大きな月はキッチンにあった直径20㎝の鍋蓋で型取り正円を描いた、
・2/1上手の岩山は(AG)+チタニウムホワイトによるハッチング→(LFO)リクインファイン・・ディテール+アスピックオイルにより油彩グレーズ(ウルトラマリン;コバルトバイオレット:シルバーホワイト)
○2026/2/2~3遠い雑木林の樹木相は(AG)+チタンイエロー主体の黄顔料の混合でハッチング描写。上記(LFO)(テルベルト
まずは遠景の位置が決まった。
○2026/2/4針葉樹林は雑木林と同様手順だが(LFO)ヴィリジアンでグレーズ、中継の樹木は(AG)テルベルト+チタニウムホワイトでアンダーペインティング
・登場するものたちに形を与え、描き進める中で突如上手中ほど、猫とカケスと重なるように飛翔する男女を降臨させることにした、まだイメージはまだもやもやだ。
○2026/02/05
1. 上手中 新たに追加したイメージ、少し見にくいがあたりを付け下塗り、飛翔するふたり、テルベルト+チタニウムホワイト(AG)でとりあえずシルエットを置いてみた。
2. 描き進めた上手奥の景色
市のごみ焼却場廃熱利用の熱帯植物園でトックリヤシが気になり何枚かスケッチ、その異形のフォルムを画面に取り入れることにした。テルベルト+チタニウムホワイト(AG))テルベルト、ヴィリジアン(LFO)葉の重なりのリズムが表情を生むのを期待した。
※メタセコイヤの表情がカギを握る。
○メタセコイヤを燃えるように描きたいと思いバーントシェナ地の上にニッケルチタンイエロー+とっておきのネイプルスイエローでモデリング(AG)、バーミリオン+マゼンタのハッチングで着色(LFO)円錐を意識して形を描き起こした。
中央の道路は空と同様ステッドラー8B鉛筆によるダブルクロスハッチングで埋めるように描写、質感の持つ現実感を意図的に回避した。
雑木の群れに所どころフレンチバーミリオン(LFO)で淡く着色、上手の道路脇植栽を仮名の点苔で表現「ツ、シ、ン、ハ、ノ」という具合でリズムを作ってハッチングが平板化するのを避けるようにした。交差点の赤信号。一台の車P356が上手方向へ走り抜けてゆく…散歩コースを犬と散歩する男女。
人の暮らしと様々に交錯するものたちの幻視の世界だ。
○2026/02/25
植物の描写が大分進み下手手前の柏、サボテンに移ってきた。
いつか見かけたグラウンドを走り抜ける鹿、対向して走り抜けるビンテージバイク。
舞台装置が徐々に整いつつある、下手最前位置の柏樹、奥に隠れるように大きな岩山の一部。
岩の割れ目から登場する男、肩に荷を持ちふたりの子を連れ登場、二匹のほっそりとした山羊に出会う、様々描き込まれた彼らが下手の景色の活気を支える。さらに手前の羽を付けた白馬と男と子供」、彼らは何者なのか?
○下手の柏樹、我々の暮らしに密着し大好きな木、縁が波状でシルエットが楽しい、今まで何度も描き庭木にも、あえてニュアンスを与えず表現、下層テルベルト+チタニウムホワイト(AG)→上塗テルベルト+ヴィリジアン(LFO).
下手の画面を支えるべく架空の崖岩を描く、下層アキーラチタニウムホワイト→上塗バーントシェンナ(LFO)→さらに中、遠景の整合性を謀りウルトラマリンのクロスハッチング(AG)で形態を補強。
no.1173sketch book DALER ROWNY Ebony (total work no.75.061)ステッドラーEB 2026/02/28
2/28日、安中市「国衙(こくが)」近藤さん宅で見かけた豪華巨大ウチワサボテンの取材に出かけ写生を試みた。平面性の強いそのフォルムは前景を引き締めるとの考えだ。玄関前、直径40㎝はあろうかという葉を持つ巨大な三体のそれはイメージにぴったりだ。
サボテン描き始め、テルベルト《マツダ》(AG)→ニッケルチタンイエロー+チタニウムホワイト(LFO)によるハッチングによる描写、よく見ると葉の葉脈のアナロジーが見える。

2026/03/05
サボテン、上塗りヴィリジアン(LFO)、ウルトラマリン(AG)のハッチングでさらに描写を進めた、少しバランスが悪いと考え下手をいくつか削り一塊にして画面全体とのバランスを取った。
メインの人物の後ろにR18沿いの花屋で購入したミモザ(AG)を投入、ニッケルチタニウムイエロー+ビスマスイエロー(AG)で花の密集した表情が強い対比を生む。
※晩秋のメタセコイヤから始まり季節を遡った柏樹の濃緑、そして春を待ちわびて咲いたミモザのテクスチャが後背となって中央の人物群を引き立てる。
○常識的な力学バランスを考えかなり重そうな花手水に金の足(AG)を描き加えた。
中心の人物たちのディテールにかなりてこずり何度も修正をくりかえす。
中央横向きの女性のコスチュームをマルーン(AG)で塗りつぶしてみた。手前の女性のコスチュームはお気に入りのフレンチバーミリオン(AG)とウルトラマリン(AG)ハッチングの組み合わせだ。
バイオリン男はバーミリオン(AG)にしてみたがメタセコイヤとの折り合いが悪く、バランスを欠いて全体がばらけた印象になってしまいウルトラマリン(AG)のハッチングにカーマイン(LFO)の上塗りで全体とのバランスをとった。
横向きの女性の顔のシルエットが決まらず試行錯誤を繰り返した。頭骨の形状認識に甘さがあり鼻から顎のラインが決定しきらなかったのが原因だった、人の横顔の個人差はかなり大きいのを思い知らされた。
○しばらく放置していた上手の空中人物たちに取り掛かった。暗緑色の中に置くのでここも朱と青の対比で進めたい。

2026/03/25
カケスたちと上手のひとまとまりのものたちが姿を現した。ここもマイメリフレンチバーミリオン(AG)とシュミンケウルトラマリンD(AG)の世界だ。画面の外から飛び込む猫はチャトラ猫のつもりだったが描くうちに蒼猫になってきて、それなりに納得。

2026/03/31 200×304.5㎝ パネル3枚組/アルキド絵具
○一部描き残しを残しながらも、一応完成とした。
まずは6羽のカケスの描き込みに伴い背景との整合の微調整を図った。
○下地のまま放置していた月の描写を銀筆でおこなった後、淡くイエローで着色(AG)同じく空舟を描写下手はテルベルト+バーミリオンァーミリオン;インミンブルー(AG)プルシアンブルー(LFO)で調子を整えた。
(AG)、上手の船は月をバックにしたためにあえてテルベルト+チタニウムホワイト(AG)のみのシルエット。さらに空を舞い、上手の船を追う男を最後に描き加えたテルベルト(AG)
○ヒルダウンの自転車たちはミントカラーのビアンキに乗っている、下り坂の精霊たち。 ¿
○花手水のはずだが結局花は描かずに強い色彩を持つミヤマカケスにかなりデフォルメをかけ、カケスの要素も加え登場してもらった。シュミンケバーミリオン+ウルトラマリンDeep(AG)
まずミモザはさらに花を増やすとともに色味を整えふっくらとした表情を目指した(AG)。

下手の人物たちは空間を阻害すると考え、残念ながら6人すべて退場してもらった、代わりに柏のシルエット、サボテンの描きましで修正、馬の顔の向きを下手方向の横向きに変え、つがいの山羊たちと下手森の中に退場する図となった。中心の人物横顔の口にほんのり朱フレンチバーミリオン(LFO)を差した。
最後に二つの雲を描写し上手の樹木に加筆、上述したとおり上手の舟を追う飛翔人を描き入れて筆を置いた。
サイン上手下方 「Yuji K 2026」
☆メタセコイヤの朱に燃える円錐状の紅葉から始まり天と地、遠く水平線を望みながら季節をまたぎ春の象徴のミモザ黄の爆発まで、色彩の世界に住むもの達をひたすら面相筆の先、ステッドラー8Bのダブルクロスハッチングの細線で追いかけ、画面の命ずるままに3か月の時間の中に埋め込んだ。
※画面の中で跳梁跋扈するものたちは月に憑かれているのかもしれません、水盤越しに私たちを見つめる凛とした女性の目は何を語るでしょうか。
地の世界を目指す制作は、かつてないほどの数々のつまずきと様々な気づきを生んだ、その中で自身知りえないイメージが交錯し、最後は絵に導かれるようにしてここまでたどり着いた。
2026/04/0/1
























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