2012年12月28日ギャラリー椿の個展が終了しました。8日に開かれたパフォーマンスも大勢の観客があり、小林裕児原案、広田淳一脚本演出、音楽(齋藤徹氏のコントラバス)出演、松下仁、他の大熱演で大いに盛り上がりました。
会期中にたくさんの来廊者がありましたが、会場でお会いできなかった方もあり大変失礼いたしました。
2013年も引き続き宜しくお願いいたします。
『森からの声』
原案:小林裕児 脚本:広田淳一(抜粋)
1 草の匂い、土の匂い。
公演場所は銀座。美術館。ギャラリー・スペース。
ギャラリーの中には小林裕児の絵画。
会場の片隅では齋藤徹がコントラバスを持って待ち構えている。
俳優の松下仁がゆっくりと観客の前に進み出て、客席を見渡す。
観客も松下のことを観るだろう。そのあと、おもむろに「コバヤシ」が語り出す。
コバヤシ こんにちは。小林裕児です。・・・
5 夜行
切れば血も出る。
夜の森は暗い。
みんな元気だ。
音の出ない楽器。
走らぬ名馬。
はち切れんばかりの深い闇。
みんな元気だ。
夜の森は暗い。
エンジンの壊れた飛行機は、ブスブス言っていたポンコツのエンジンを、軽量化のためにあえて、すべて、捨てて、すべての客室乗務員と、すべての観光客と、すべての操縦士たちを、捨て去った。
機長は家に帰った。
副機長は釣りに行ったっきり帰ってこない。
スチュワーデスたちはまだ、おしゃべりに夢中になっている
軽い軽い。
速い速い。
無人の飛行機。
エンジンのない、無重力の飛行機。
誰も乗れない、透明の、行くあてのない、目的地のない、喜びのない、悲しみのない、涙のない、爆撃のない、虐殺のない、殺し合いのない、たくらみのない、落とし穴のない、愉快な、とても愉快な飛行機。さっき、夜空へ飛び立った。
軽い軽い。
速い速い。
切れば血も出る。
夜の森は暗い。
みんな元気だ。
暗い森を行く。
暗い暗い。
軽い軽い。
速い速い。
飛行機は空をかけ登る。
飛行機は軽い。飛行機は素早い。飛行機は月から脱走中。
さっき、静かに、逃げ出した。
音の出ない楽器。
走らぬ名馬。
音の、まったく音の出ない楽器。
もうすでに、もう、もう、まったく走らぬ名馬たち。
はち切れんばかりの深い闇。
みるみる、一本の木が遠くなっていく。
みるみる、原っぱが小さな林になっていく、森になっていく、
みるみる、小さな森が大きな森になっていく、山になっていく、
みるみる、小さな山が大きな山に、巨大な、とてつもなく巨大な、山脈に、なっていく。
軽い軽い。
速い速い。
蛇腹の裂けたアコーディオン。
弦のすべて切れたヴィオラ。
両手をもがれた掃除夫と、猫に乗り移る、食い千切られたネズミたち。
鳴き声が聞こえる。
ビールっ腹のアル中ばかりで結成された、デブたちのブラスバンド。
日に焼けた頬をぷっくりふくらまして、ベコベコになったアルト・サックスに空気を送り込む。
その伴奏に合わせて、そのミュージックに合わせて、
ノリノリで、その鳴き声が聞こえてくる。
声の主はオオカミ。死に絶えたオオカミ。
四方八方から、絶滅したその、音の無い遠吠えが聞こえてくる。
そしてそれが響き渡る。この森中に。この山中に。
そしてそれが響き渡る。こだまする。この、とてつもなく巨大な山脈全体に。
軽い軽い。
速い速い。
切れば血も出る。
みんな元気だ。
見上げれば、空に飛行機。
夜空に、音のない。
無人の、無重力の、無尽蔵の、オオカミたちの遠吠えが。
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