いと高き丘の上で
橋本駅から学生に交じって30分程の道のりをよく歩いた。
橋本駅方面から眺めると境川の深い谷を挟んで久保が谷戸トンネルのはるか先、
丘の上に標高150メートルの多摩美の建物がかすかに望めた、歩くのが遅い大汗の僕を
後目に健脚の学生たちがどんどん追い抜いて行く・・広大な学内はさらに険しくまるで
山城、定年坂と呼ばれる急登を超えて森の中、絵画北棟に漸くたどり着く、学生の
アンケートに坂を何とかして欲しいと云うのが幾つもあった。しかしというかだからこそ
学内に肥満児が少ないのも事実?だろう。
とまれ版画科での授業はゼミ形式で組まれたきわめて実践的かつ専門性が高い濃密
なもので、学生たちがアルプスのピークアタッカーのように苦労して登頂した末に味わう
爽快感は格別なものだろう。
僕の在任中にも何人もの学生がこのたぐいまれなちょっともやもやした環境の中から
汗をかきかき試行錯誤、もがきながら新たな恐るべき表現者として飛躍を遂げていった。
もはや彼らは良きライバルである、健脚の彼らに後れを取らぬようにと思う。
小林 裕児(2016年3月まで版画科教授を経て現在客員教授)
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