画眉鳥の居る 画家 小林裕児
寄居町に移り住んで二十数年になります。ヤギやアヒル、犬、猫を連れての大騒ぎの引っ越しでした。穏やかな丘に囲まれた谷地の景色に魅かれての事でした。目の前に木々に囲まれたちいさな溜池がありそれを越えて一本の細道がつながりたどって行くと標高差九十メートル、海抜二百メートルの男衾地区最高点の標識があるタカンド山があり、さらにその先の低山へと続きます。
翌桧の森を背景にした我家の丘の景色に魅かれた私は画布を取り出して一枚の絵を描きました、横長の画面にボールを伏せたように丘を描き、上に一艘の丸木舟を置いたのです、そしてその中で和む男女を差向いに配して「丘の上の船」と名付けました。その後、丸木舟はこの地に馴染み、繰り返し描かれ続け、私の主要なモチーフの一つとなって行きました。
時間の経過と共に、丘には小さな二本のひこばえの合歓の木が生え、それはやがて樹冠を仰ぎ見る大樹に育ち地面にまだら模様の木漏れ日を落としました。我が家は次第に森に呑み込まれていったのです。初夏には翌桧の森にポツンポツンと生えていた山百合がいつの間にか見事な大群落となって甘いに香りと共に目を喜ばせます。
山百合と同じころ、ぱっと広げた扇子のような薄桃色の花をつけた灰色の合歓の小枝を伝って様々な野鳥が庭を訪れます、ヒヨドリやメジロ、カケス、キビタキが訪れたこともあります。
そんな野鳥たちは姿を見せなくても遠く鳴き声で存在を知らせる者がいます。特徴あるアオバトやフクロウ、などです。
しかしそんな中、オオルリ、クロツグミやイカル等様々な鳥の鳴き声を間断なく聞かせる鳥が姿を見せるようになりました。近く見るとヒヨドリくらいのその鳥は白い眉が特徴なのですが図鑑に載っていずマミチャジナイかなと管見で断定していました、しかし図鑑には殆ど啼かないと記してありますし大きな疑問符を持っていました。
しかしこの夏、正体を知り胸のつかえを下しました。すぐそばでさえずる姿をネット検索で「画眉鳥」だと知ったのです。
私は描いている絵の中にくっきりとした白眉の画眉鳥を二羽描き込みました。
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