2019 春陽展 「西風来駕」 制作過程
あるとき少年時代に読み強く印象した詩を何故か思い出した。古代ギリシャのサッフォーの詩「夕(ゆう)星(づつ)」ここからから始まった。
さだかな記憶ではないのだが初期衝動とも思える最初のイメージは2018夏に描いたドローイング、三頭の馬に乗った女たちが只々猛烈な勢いでこちらに向かって駆け込んでくる。
そこにはアンダーグラウンドの世界が垣間見えていた。
しかしスケッチブックでスタディを繰り返す中で円環、螺旋的ともいえる上昇、下降のイメージやこの秋に実施した天草紀行からはるか遠方と上昇を共に暗示する高い視点の採用、内海のイメージなど、主題や情景が漠然と見えてくる中で画面の要請に引きずられるようにアンダーグラウンドの世界イメージは変容消滅してきた。
2018/12/20 大まかなエスキースが決まり制作の準備が整った。
2018/12/27 六枚のシナベニアパネルをボルトと桟木で結着、μグラウンドにより天竺木綿をマウント、後μグラウンドにより12層塗り重ねしたものに木炭で自由にドローイング、制作を開始する。
2019/01/08 下描きが終了、手前に突進してくる馬たちはどんどん近づき手前に飛び出す勢いでついに画面下方からはみ出した。
下描き全図 内海をいくつもの入江が区切り3頭の馬が女たちを乗せ丘の上をめがけ突進してくる。
騎乗の女たちは馬を制御しきれず先頭の馬上の人は天上と地上に引き裂かれ、そこからは新たな世界が出現している。
丘の上は様々な葛藤を演じる人や動物がそこここにあふれている。
完成作と比べると概ねドローイングのイメージが踏襲されているのが解りスケッチブックによるスタディの段階に時間をかけだけ迷いの少ない制作になった。
2019/01/13 正月休みを利用して画面を休ませた後、ニードルで罫書き線を入れφ250紙やすり+テレピンで表面を削り木炭によるドローイングを落して平滑な表面を作り出す。
2019/01/14 画面全体にリンシードオイルを浸み込ませ余分な油を拭った後、ダンマル+スタンドオイル溶剤+油絵具イエローオーカークサカベ(K)を計画に従って浸み込ませた。
2019/1/16 1日置いてオイルが落ち着くのをまって場所を選びダンマル+スタンドオイル溶剤+油絵具プルシアンブルーニュートン(N)により2回目の浸層を行った。
2019/1/20 テンペラ絵具による下地層を下地に浸層する意識でテルベルトマツダ(M)、バーントシェナシュミンケ(S)、チタンホワイトホルベイン(H)を適宜混ぜ合わせながら作成、明暗が確定し漸く絵面(えづら)が見えてきた。左手に柑橘、右手に椿、枇杷か?
2019/1/22 島影と水辺の関係が気にかかり津久井湖に取材に行った。
2019/1/26 場の設定として今回は大気、水を紅い場として設定することにして絵画空間を考慮しながら
クサカベ(K)のフレンチバーミリオンとバーミリオンの油彩による塗りを行い一気に空間設定を確定した。
2019/1/27 朱色の場が出来た、いくつか問題の個所があり修正の必要を感じる。
遠景の山々より具体的な描写に移る段階にきた。
2019/1/29 対岸の遠景の山並みからテンペラ:油彩で描きはじめる。
テンペラ/コバルトバイオレット(S)チタニウムホワイト(H)、油彩/フレークホワイト、ブロックス(B)、
ウルトラマリン レンブラント(R)
2019/2/1 樹木に葉を付けてみる、山で採収した藪椿の一枝により同存化表現、テンペラバーントシェナ(S)+テルベルト(K)
2019/2/3 油彩テルベルト(N)+ビリディアン(B)+ラモリエルグリーン(B)により葉を着色、シルエットの効果を考慮して今のところこの木は葉に細かな着色描写は控える事にした。
2019/2/6 遠景の島、半島?のディテールを描き込んだ、よく見れば人家があるような表現にしてみた。
2019/3/11 登場人物や馬たちを描き始めた。
2019/3/29 細部を詰めるのに夢中になり撮影を怠ってしまったがどうやら完成に近づいてきた。
画面全体を眺めてみると幾つかの不満箇所があり修正描きマシをすることにした。
・下手中段の鳥かご少女の顔が大きくバランスが良くない。
・下手下段の髪を洗う女と二匹の山羊の関係が不鮮明、大胆な解決が必要か?
・真ん中の女のマントの裏地色が弱くテンペラウルトラマリン(S)による補色が必要。
・手前の丘と抽象化された海が離れすぎているのが気にかかる、間に何本か杉の樹を挟むことにする。
・その他幾つか気になる所の微調整が必要。
2019/4/1 第96th春陽展出品作最後に椿の花を描き加えて完成。
「西風来駕」274×350㎝ パネル/テンペラ・油彩
描くつもりであえて描かなかったものもあり今後描く絵の中に反映したい。
・上手の羽がある女の棒からは紐の先におもちゃ(人形かロボット?)を吊るしたかったがスペースの関係で無理と判断、同じように髪を洗う女の側にレンブラントの版画由来の巻貝を置きたかったが煩雑になるのでこれも断念。
いつも描き入れる中景の人物も手前のインパクトを弱めると判断割愛した。
下地の白は今回は白鳥の白などに残した。
偏西風に乗って内海を越え蒼き馬の女騎手たちは疾駆到来、彼らは何処から・・そして何処へ・・・
2018年秋、めったにしない旅行を敢行、2度にわたり熊本来訪、天草の埼津教会まで足を延ばし隠れキリシタンの史跡を訪ね快晴の東シナ海に沈む真っ赤な夕日を見た。
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