佐々木正人著「知性はどこに生まれるか」講談社現代新書
トルーマンショウという映画を覚えているだろうか。ご覧になっていない方のためにちょっと紹介しよう。ある一人の青年が空間的、時間的環境を両親や妻などの人的な関係も含め、全て本人のためにのみ極めて精巧かつ人工的に作られた観察装置中におかれていて、そのことを知らないのは世界中に主人公のみ・・・。この入れ子のように仕組まれた恐ろしい世界、実は巨大スタジオの中で延々と24時間放映されつづけるテレビ番組のプロジェクトであったというのである。これと似た恐怖を自意識過剰気味の少年時代の僕も周りの世界にたいして持ったことがあった。自分の周りに自分とは無関係な世界がいつでも何所でも存在していて、触覚的にはどこか仕組まれたぺらっとした表面しか感じられない。はたして自分では見ることの出来ない内側からの自分が、外側から見えていることと整合しているのか。
また、絵を描いたことのある人であれば誰でも疑問に思う、見えることと認知していることのギャップ、目の前にある複雑な実態に対する困惑。この本はこうしたことに挑んだジェームス・ギブソンが提唱するアフォーダンスへの入門書である。このように書くと大変難解に思われそうであるが、佐々木氏はダーウィンが見ることに徹底的な方法を立てて解き明かした、さんご礁の形成の秘密と、地上にあるものすべてをおおい隠すみみずの行為から(「何かのために」生きている、などという言い方は、生き物の行為の結果を観察した人間が見たことを表現するために、かってに後からした説明に過ぎない。) と説き、エコロジカルの意味について深く解き明かし、僕らの「ある」ことの不安の本質をやさしい言葉で解き明かしてくれる。
チャールズ・ダーウィン「ミミズと土」平凡社ライブラリー ジェームス・ギブソン「生態学的視覚論」サイエンス社も併せて読むことをお勧めする。
2003 小林裕児 青山学院女子短大同窓会紙