絵を描きだしてから40年も経ると、自分の絵について語る機会が多くなり、一見その時々の思いに反応しながら描いてきた絵が、何かしら変わりないあるものを常に抱えていたようにも思うようになりました。その一つが動物です。
私の絵の多くに動物が登場します。山羊などは1982年初登場以来、2009年の今日まで変わることなく登場し続けています。ミミズク、馬、象などもそうです、私の絵に動物は欠かせません。
動物の登場は、東京の奥、山と川の町五日市(現・あきる野市)に移住したことに因ります。30代の私は、犬を連れて家の裏にある金毘羅山へ毎日登っていました。そこで度々出会った古老から、自然と人はどう向き合って来たかを、「落ち葉のなかに埋もれて、人間の存在を消す」という鮮烈な実践で教えてもらいました。全身を枯葉に埋め顔だけを出すと、驚くべきことに山の景色は一瞬のうちに「異界」へと変貌し、そこの住人である鳥たちが私の耳元まで寄ってきたのです。
それ以来次第にはっきりしてきた事ですが、人間の生活をすっぽりと取り囲んで別の世界があり、人は自ら囲い込んだ社会のなかで、なにやら騒々しく生きているのではないか。
「異界」の住人である動物たちはしんと静まり、ある力を感じさせながら、鋭い視線を人間に向けていて、我々はそれを感じつつ太古から異界に対する畏敬の念を持って生きてきたのではないかと。
犬、猫、山羊、アヒル、ウサギ、カラス、など多くの動物を飼い、双眼鏡を携え野鳥の観察に熱中する日々を重ねてきた私が、もし変わらぬ何かを抱えているとしたら、動物たちの登場を通して、人間以外の存在「異界」との見えざる交感を、イメージとして画面に描き表してみたいという強い思いなのかも知れません。
今回初めて、杜のギャラリー、曼荼羅さんで個展を開催することになり、ギャラリーのたたずまいにピッタリした内容でご来場の皆様に私の絵を見て頂けることを、心から喜んでおります。
小林裕児