今年の1月、虎年にちなんで即興でトラを描くというパフォーマンスを行った。
音楽はコントラバスの斎藤徹、劇作家の広田淳一が3つの物語を読み、役者のチョウソンハが虎になって演じ大好評だった。
その時動物にまつわる人間の文化の奥深さに気付かされた。
虎のいない日本に、丸山応挙、伊藤若冲などが描いた虎の絵がたくさんある。中国、朝鮮の絵を手本にして描いたのだ。
「象引き」という団十郎の歌舞伎も見た。江戸時代には実際に象を12年も飼っていた記録が残っているが、この芝居はその前に作られたようだ。
見直してみれば、トラとゾウに関した表現はコマーシャルから文学、美術、演劇、ダンス、音楽と古今を問わずあらゆるジャンルに存在している。
それは太古に培った動物への畏敬の念が、今もどこか人間の深層にあり、常に作用しているのではないかと推測してみたくなるほどだ。
上野動物園のトラの前にしばらくたたずんでいれば、どの男も連れの彼女に向かって「トラとライオンじゃどっちが強いと思う?」と問う。
「ゾウさんはね。….. 」と母親は子どもにやさしく話しかける。
トラもゾウも生息しない日本ののんきな風景と言えるかもしれない。
しかし、野生の頂点にある二つの種が、世界のどこかで力強く生息しているからこそ、トラとゾウのイメージは世界をかけめぐり人々の心を打ってやまない。
私たちの文化はこうした動物との交感によってエネルギーを得、多彩な色どりを見せているのではないか。今それを失いたくない。
そんな折、「パフォーマンス虎」を見たトラ・ゾウ保護基金の代表戸川久美さんから今回の企画を持ちかけられた。そこで画家と役者そして音楽家それぞれが持つトラとゾウへのイメージをひとつの公演として実現してみようと思った。
今年5月に一つのパフォーマンスを行った。女優の内田慈が鶴に扮し自作の語りと齋藤徹・作曲による歌で一人芝居を演じた。演奏は齋藤徹と喜多直毅。これが大好評で語り草になっている。
今回それを再演することになった。内田慈は「トラとゾウ」版の「歌語り」に挑戦しさらなる展開を試みる。
齋藤徹と喜多直毅は即興演奏と楽曲演奏で共演する。10年間続けてきた小林裕児のライブペインティングと共に、私たちのトラ・ゾウへの思いがどう表現されるのかぜひ多くの方々に見て頂きたい。