2011.2.19 木炭による炭入れの試行錯誤の結果、今年の春陽の作品
(273㎝×350㎝/共科パネル・μグラウンド)漸く全体の構想が決まり絵具
を置く準備ができた。今年はパネルの軽量化と歪の防止にかなり時間を割
いたというか時間をかけすぎたので日程で少し苦労しそうだ。
2011.2.21 土製顔料の油彩イエローオーカーを下地のμグラウンドの粒子の
間にしみこませてみる、地上に属するすべてのものは土に起因するという考えだ。
2011.2.24 極めて薄い藍の色であるプルシアンブルーをイエローオーカーの
上から再び沈める、大気の象徴、すこしくすんだ藍色がすべてに充満する大気を
顕す。齋藤徹さんにもらった映画「エレニの旅」をふと思う、時間の中で定まる場所
を持たなかったエレニは言う「私はいつも難民です」僕自身も何十キロも都市から
離れて野中に生活をしながら、都市との間を高速道路や鉄道網を駆使して遊動
している。
2011.2.27 アースグリーン(テルベルト)で水の映り込みをバーントシエナ、
アンバーで大まかな草木をテンペラで描いてみる。またしても土の色だ
2011.3.4 遠く森の遥かかなたの山から描き始める樹木を意識した点苔を試みる
当然のように雑木に針葉樹が自然に混ざる。ネイプルスイエローの壜が大分少ない
のに気が付いて画材店のネットで調べるとこれがないのだ、アンチモンが無いのか
売れないので廃番なのかみあたらないのだ。
森の奥に針葉樹の森を設定したほうがよいのではと思い木を増やしてみた。
のこぎりの歯のようなシルエットが思わぬ効果を生んだように思う。
2011.3.7
葉の色は去年見つけた、油彩のテルベルトだ。アースグリーンとも言う、
半透明の色味が気に入っている。この色は面白くいまはどうかわからないがもとも
とベローナの土だったとかでメーカーによってかなり違う色なのだ。僕はこの色味の
相違を利用して葉の色を表現している。モノトナスな褐色に一旦表現され色を変換
するのだ、赤っぽい緑が気に入っている。
ただしネープルスイエローのハッチングで表した草原はエメラルドグリーンを
使ってみた。
2011.3.9 今日からは一番手前に位置する女に取り掛かってみた。
朝まだきの谷間が顔のイメージを引き出すのを期待している、しかしかなり執拗な
ハッチングを試みたところで幾つかの思い違いに気が付き・・・かなり難航しそうだ。
3.11は美術家連盟の会議に出かける途中で大震災に遭遇そのまま
電車に1時間半缶詰、そのまま帰宅困難に。
友人の画家の高岸氏に助けを求め夜中の12時ころ帰宅、12日
はアトリエで制作するもTVのニュースを度々見るうちに不安に
見舞われる、非日常が日常の非日常の僕の表現世界を脅かす
ようですごく恐ろしい、不安定な格好の女の衣装をそれで
もニュートン社のカーマインの赤で描き続ける。
2011 3.14
2011 3.15
何故か川に向かって下降する女の乗る馬を赤く塗る。
福島原発の事故の模様や被災された方たちの模様に耐えられなくなりついに制作をを中断、
このままでは精神の均衡を維持できないと考え思い切って絵をたたみ奈良の車木工房を頼って
そこで制作することにする。
2011 3.19
広い工房の中で外界から遮断され揺れない地面の上で制作するうちに次第に落ち着きを取り戻し
いくつか大きな変更を加える、何か中の登場人物がみなこちらに視線を送り迫ってくるのは耐えがたい。
午後、車木工房親会社の岡村社長の訪問を受ける、戦争中も中川一政先生が岡村印刷の先代
を頼ってこの地に滞在しそれが車木工房ができるきっかけになったという話を披露してくださり感慨
深いものがあった。
わがやのアトリエにくらべ引きがあるのが嬉しい。
飛翔する子供たちの顔を横に向けた、画面の奥へ視線を送ることで空間を設定した意味がジグザグの
図の中で表現され、胸のつかえのようなものが少し晴れた。
2011 3.25
アトリエを逃げ出した時にべったりと塗った弁柄色の馬で苦労するもここはこの色で行きたい。
白樺はこの絵の主要なもモチーフでもあるので思い切って強い表現を試みた。
完成に向かい船の色で少し迷う。
それと髪の毛をどう扱うかだだ。
この男は一体何を見ているのか?
2011 3.30
女の首は大体描かないのが普通なのだがちょっと猪首な感じがしたのであえて肩の線を下げて
宙ぶらりんにしてみた。
最後に男の視線を帽子の庇を下げることでややあいまいにした。
2011.3.31( 273cm×350cm/供科べニアパネル6枚組/テンペラ・油彩)
一応の完成図「こだま」というか今日は搬入日だ。KODAMAには木霊や木魂、谺と素晴らしい
字がありいずれも捨てがたいがここでは声に出して
発語して欲しいのでこのタイトルにしたがいかがだろう。
完成図の細部
完成図、春陽展が収容の写真。しっかりした照明にするために作品を半分ずつ撮影会場で自分の作品に出合いこれで完成との思いがあった。
「こだま」2011.3.31 パネル6枚組273×350cm/μグラウンド下地、テンペラ、油彩